第二話  夜の街シャット    ブルーが気が付くと,辺りは真っ暗でした.  しかし,だんだん視界がはっきりしてくると,そこが街の中だと分かりました.  きっと真夜中なのでしょう.少し遠くに見える時計塔以外に,灯りは見えませんでした.  辺りはひっそりとしていました.それほど寒くはありませんでした.  ブルーは時計塔の下で,眠ることに決めたようです. (外で眠るのは久しぶりだにゃ・・・)  最近おじいさんの家で温かい暮らしをしていたブルーは,野良猫だった頃を思い出していました.  そして,その日の夢の中にはお母さんが出てきました.  ブルーは目を覚まして,少し悲しい気持ちになりました.  とっても寂しくなってきました.   (あれ・・・?)  ブルーは辺りをきょろきょろ見ています.  朝まで眠っていたと思ったら,周りの家に電気が灯っています. 「さすがに,寝すぎたかにゃ・・・?」  ブルーは街の中をしばらくあるいて見ることにしました.  ブルーが噴水のある公園のところまで来ると,何か面白い音の楽器を演奏している青年がいました. (面白い音だにゃ)  ブルーは興味しんしんです.  日が暮れているというのに,公園にはたくさんの人がいました.  子供たちも元気に走り回っています.  ブルーがぼーっとしていると,男の子に尻尾を踏まれてしました. 「いたい! ニャンてことを・・・」  ついつい,人間の言葉をしゃべってしまいました. 「わー.猫がしゃべったぞ」 「確かにしゃべったー」 「変な猫だ」  子供たちは,そんなことをいいながら,ブルーの前から走り去っていきました. (謝るくらいしてもいいのにな・・・)  ブルーが子供たちの背中を見ていると,向こうから男の人が歩いてきました.  牧師の格好をしています. 「こらこら,何を騒いでいるんだい?」 「だって先生・・・猫がね,しゃべったんだ」 「猫が・・・?」  そんなわけがないだろうとあきれた様子で,男の人はブルーの下へと歩いてきました. 「やあ,子猫さん.朝のお散歩かい?」  ブルーは当然黙っていました.  しかし,しゃべれるものなら聞きたいことがありました. (こんなに暗いのに,朝だって? 今は夜じゃないのかにゃ?) 「さあさあ,いつまでも遊んでいるばかりいるから,空の神様が怒るんだよ」  しばらくすると,牧師は子供たちを自分のもとへ集めました. 「今日は学校が休みなんだから,きちんと決められた仕事をしなければ」  この牧師は,子供たちの先生であり,親代わりでした.  一人で孤児たちの面倒をみているようです. 「さあ,いっておいで」  牧師は,子供たちを見送った後,ブルーのところへやってきました. 「君は本当にしゃべれたりするのかい?」  そういって,子猫の顔を覗き込みました. 「なんてね,どうかしてるな・・・」  それから,しばらく空を見ていました.  星が見えないことから考えると,やっぱり今は朝なのかもしれません.  しばらく黙った後,牧師は言いました. 「この街はね,外に出て行くことも,外から入ってくることもできないのさ」  相変わらず空を見ています. 「だからね,私は空にあった雲にあこがれていたんだ」  風に乗って,どこまでも流れて生きたい.それが牧師の夢でした.  今度は,少し悲しそうな顔でブルーを見ました. 「でもね,最近空が真っ黒になってしまって・・・」  そこで切って,もう一度空を見ます.  ブルーもつられて上を見ました. 「一体,空の神はなぜ我々にこんな罰をお与えになったのか」   その悲しみが,ブルーにはよく分かった気がしました.  きっと,お母さんに会いたいブルーの気持ちと,空が見えない牧師の気持ちは,同じようなものだったに違いありません. 「何故か君には普段話さないようなことばかり言ってしまうな・・・」  牧師は,少し無理をして笑顔をつくっているようでした.  「静かに聴いてくれてありがとう.あの子達のためにも,私ががんばらなければ」  そういってブルーの頭をなでました.  とりあえず子猫は,「にゃー」と鳴いて答えました.   それから,牧師は用事があるといって,どこかへ行ってしまいました.  再び見知らぬ土地で独りぼっちになったブルーは,もうしばらく街を見て歩くことにしました.    しばらく歩くと,ブルーの前に高い高い壁が現れました.  辺りに明かりは少なく,薄暗くなっています. 「これ,なんだろう・・・?」  ブルーは,その壁沿いに歩いてみることにしました.  どこまでも,どこまでも壁は続いています.  途中何度か休みながら歩いていると,いつの間にか夜になっていたようです.空にはたくさんの星が見え始めました.  しばらくすると,ブルーの真上に月が見えました.  きれいな満月でした. 「やっぱり,さっきまでのは夜じゃなかったんだ・・・」  しかし,歩き疲れていたので,すぐに下を見ました. (いい加減,疲れたにゃ・・・)  ブルーがそんなことを考えながら頭を上げると,少し前の壁に大きな扉が付いているとことに気が付きました. 「開くのかにゃ・・・? これ」