第四話  子猫のマーチ  辺りからたくさんの足音が聞こえてきました.  男の子を警備兵たちが取り囲みました. 「いたっ・・・!」  彼は足を痛めたらしく,その場を動きませんでした.  あっという間に,警備兵たちに取り押さえられました. 「離せってば」  男の子はわーわーと何かを怒鳴っていましたが,すぐにどこかへ連れて行かれました.  辺りはまた,静かになりました. 「ニャンだったの・・・?」  ブルーはあっけにとられていました. 『この街は同じ日が続いていることは,話しただろう?』  ワシが話を始めました. 「あ・・・うん,そうだったね」 『しかし,それに気がついている人もいるのだ.少ないがな』 「もしかして・・・」 『あの牧師や,さっきの少年もそうだ』 「・・・それで?」  ブルーは,ワシの言いたいことが分かりませんでした. 『この空を元に戻すには,この街の時間を元に戻す必要がある』  ワシは,空を見ました.  子猫も空を見ます.それから,自分のすべきことを理解したようです. 「そのためには,ボクが何かをしなきゃならないんだね?」  ブルーは目を,時計塔のほうに向けました. 『そうだ.それには,あの少年の助けが必要だ』  そういわれれば,やることは決まっています. 「助けに行こう!」  子猫はワシの背中に乗って,男の子のつかまっている建物へとやってきました.  窓からそっと,中をのぞきます. 「・・・いた!」  子猫はそっとつぶやきました.  それは小さな声でしたが,男の子は気がついたようです.  鉄格子越しに,ブルーを見ました. 「猫か・・・でもいいや.こっちにおいで」  ブルーは鉄格子の向こう側にぶら下がっています.  男の子はぴょんと飛んで,同じようにぶら下がりました.  それから腕の力で自分の体を持ち上げます.ブルーと目が合いました. 「俺は,ロアってんだ.よろしくな」  男の子はニッと笑いました.  それから片手で,ブルーの頭をなでます. (でも,そんなことしたら・・・) 「あいたたた・・・」  ブルーの思ったとおり,男の子はバランスを崩して落ちてしまいました. (大丈夫かニャ・・・?)  ブルーは彼が仲間なのかと思うと,ちょっと心配でした.  その後,ブルーは道に迷っていました.  明るい大きな道に出たいのに,いつまでたっても暗い狭い路地のままです.  ブルーはちょっと心細くなってきました.  そのときです. 『・・・チリリン』  どこかで鈴の音のようなものがしました.  ブルーは辺りを見回しますが,薄暗いせいか音の主は見えません.  今度は少し早く歩きました. 『・・・チリンチリーン』  音は鳴り止みません.  ブルーは恐怖のあまり走り出そうかとおもいました. (・・・あれ?)  しかし,すぐに音は自分の胸元からしていることに気がつきました. 「にゃんだ・・・これ?」  もちろん,ブルーには見おぼえがありません.  でも,何かが追いかけてくるわけではないことを知って,安心しました. 「驚かさないで欲しいニャ」  ブルーは,いつの間にか自分についていた首輪を前足ではずそうとしました.  その時です.何かがブルーのほうへさっと駆け寄り,低くうなりました. 『ガルルルルルルルゥ!』  野良犬です.どうやらここは彼の縄張りのようでした. 「やめてやめてやめて」  ブルーはあわてて走り出しました.  しかし,野良犬はいつまでも追いかけてきます.  しかも,何故かどんどん数が増えていきます.  ブルーは必死で逃げました.  あわてていたので気がつきませんでしたが,ブルーが右に曲がると鈴が鳴りました.  今度も右に曲がると,鈴は鳴りませんでした.  どうやらこの鈴は,ブルーが十字路を右に曲がったり,左に曲がったり,真っ直ぐ走ったりするとなるようです.  そして,ブルーは無意識のうちに,鈴の鳴るようにだけ走るようになりました. 『・・・リンリン』  ある場所の前で鈴が2回なりました. (ここは・・・さっきの!)  塀に囲まれたこの建物は,ロアが捕まっている牢屋があるところです.  どうやらこの鈴は,ここにブルーをつれてくるためのもののようです.  ブルーは,前にペガサスに教わったように空を駆けて,塀を越えました. 『・・・ガサガサ』 「ん? 何か音がしたか・・・今?」  入り口の門を見張っていた警備兵が,後ろを振り向きました.  ブルーは見つからないように,じっとしていました. 「何だ? あれ・・・?」  しかし,警備兵たちの注意は再び前へと向きました.  さっきの野良犬たちは,すぐにやってきました. 「うわああああぁぁぁぁ」  警備兵たちを押しのけて,塀の内側へなだれ込みます.  ブルーは,建物の中へと走っていきました.もちろん犬たちもついていきます.  建物の中は大騒ぎでした.   「よしよし,いい子だ」  そのころ,ロアは一匹の犬をなででいました.  その犬は白と茶色の毛をした,大きな犬でした.  口に鍵の束をくわえています. 「よし,出れた.俺ってやっぱり天才だな!」  どうやら,この事件はロアの仕業だったみたいです. 「行くぞ相棒」  建物の中は,相変わらず大騒ぎでした.  ロアとその犬は,騒ぎに乗じてまんまと牢屋を抜け出します. 「・・・助けてー」  ブルーはまだ必死に逃げていました.