第七話  未来  ペガサスは街から少し離れたところに降りました.  ブルーもラウも,まだ興奮が収まらない様子です. 『私が人の子らに見つかると,いろいろとやっかいなのでな』  それも理由のひとつでしたが,森の民は深い森の中でしか生きられません.  そもそも,日の光の前に出てくるのも大変なのです. 『それでは,未来のことは君たちに頼んだぞ・・・』  ペガサスは,そういい残して飛び去りました. 「未来・・・かぁ」  ブルーはそのとき,おじいさんのことを思い出していました. 「そういえば・・・」  街へと歩いている途中,ラウが何かを思いついたように言いました. 「君,名前は?」  ブルーは胸をはって言います. 「ボクは,ブルーって言うんだ.おじいさんがつけてくれたの」  そして,おじいさんのことを話しました.  ラウは黙って聞きました.  ブルーが全部話し終わった後, 「それなら,君は帰ってしまうんだね・・・」  ラウは少し悲しそうに言いました. 「うん・・・できるならね」  ブルーもラウたちと別れたくありませんでしたが,おじいさんに会いたくて仕方がなくなってきました. (おじいさん,元気かにゃー)  その日の夜のことでした.  ブルーは久しぶりにおじいさんの夢を見ました.  ふと目を覚がさめて,寂しくて仕方がなくなってきました. (おじいさん・・・)  窓から見える月を見上げました.  そして,外を散歩したくなったので,1階に降りることにしました.  ラウやミアを起こさないようにそっと. 「何をしてるんだい?」  突然声をかけられて,ブルーはびくっと飛び跳ねました. 「ぼぼぼぼ,ボク・・・その・・・」  とてもあわてて,声の主になんとかそれだけ言いました.  ラウは優しい顔で, 「あわてなくていいさ」  ブルーの頭をなでました. 「君は帰りたいんだろ? 元の時代に」 「うん.できたら・・・」 「もしかしたら」  ラウは何かを思いついたようです. 「おじいさんの絵を描いたら,帰れるんじゃないかな」  ブルーはそれを聞いて,少し元気が出たようです. 「じゃあ,僕が言うとおりに描いてよ!」  ラウはさっそく筆を動かし始めました.  ブルーもおじいさんを知らないラウの目の変わりになって,あれこれ指示を出していきます.  2人の息は,ぴったりでした. 「これでよし・・・と」  ラウが筆を置きました.  そこに描かれていたおじいさんの絵は見事で,ブルーはラウがおじいさんを知っていたのではないかと思ったほどでした. 「似てる・・・! すごいや!」  ブルーはおじいさんに会えたかのように,おおはしゃぎでした. 「さあ,お別れだ」  ラウは,少し悲しそうに言いました. 「・・・うん」 「ミアには,私が後から話しておくよ.今は寝てるようだから」 「・・・うん」  ブルーはもしかしたら,またあの絵に飛び込めばここにこれるのではないかと思いましたが,ひとまずお別れを言うことにしました. 「ボク・・・ラウとミアといられたから,さびしくなかったよ」 「そうか.君にはまたいつか会える気がするよ」 「そうだといいね.いつか・・・どこかで」  ブルーは絵の横に置かれたイスにのって,前足で絵にさわってみました.  すると,はじめここに来たときのように,体が光りだします. 「じゃあ,ボク・・・」  もう行くね,と言おうとした時, 「ちょっと待って!」  少しとおくから声がしました.  ミアの声でした. 「あなたは大事な人のところに帰るんでしょ?」 「うん.おじいさんのところに・・・」 「その人に私は幸せだって伝えて!」 「・・・?」 「お願い!」 「分かったよ.じゃあ,ボクはもう行かなきゃ」  ブルーを包んでいた光が,よりいっそう強くなりました.  そして,ブルーは消えてしまいました. 「・・・私たちも,君のことは忘れないさ」  ありがとう.2人のことは忘れないから.  それが,ブルーの最後の言葉でした.