第五話  3回目の今日  逃げるのに疲れたブルーが,壁際で大きな犬に追い詰められていました. 「やめて,ボボボクを食べてもおいしくないよ・・・」  もう駄目かと思いました.そして,とうとうその犬が飛び掛ってきたそのとき・・・, 「うわあああ・・・あーあーって,あれ?」  ブルーは大声と共に,目を覚ましました. 「にゃ・・・? ユメ?」  ブルーが目を覚ますと,街には明かりが灯っていました.  辺りを見回して,歩き出します.昨日の噴水のある公園へとやってきました.  昨日と同じ音のする楽器を演奏している人がいました. 「あ・・・!」   そして,その向こう側にはあの牧師さんがいました.  ブルーは駆け寄ります. 「先生!」 「せんせー」  その後ろから,ブルーを追いかけるように,子供たちが走ってきました.  そして・・・, 「痛いニャ!」  やっぱり尻尾を踏まれたのでした. 「今の猫しゃべった?」 「わー,猫がしゃべったー」 「変なねこー」  ブルーは痛む尻尾をなでながら,あることに気がつきました. (・・・昨日と一緒?)  始めは思い過ごしかと思いましたが,どうやらブルーの考えは正しかったようです. 「さあさあ,いつまでも遊んでいるばかりいるから,空の神様が怒るんだよ」  そういって,牧師は子供たちを送り出しました.  それから牧師は,昨日と同じような話をしました.  その話は,ほとんど同じでしたが,最後が違っていました. 「昨日・・・正確には,もう1回前の今日かな・・・?」  あのワシの言っていたとおり,牧師はこの街が同じ日を繰り返していることを知っているようでした. 「いつもとは違って君が現れたから,何かが変わると思っていたんだけどな」  ブルーは,しゃべろうかどうか迷いましたが,今回も黙っていることにしました.    それから,ブルーは昨日ワシに会ったところまで行ってみました.  この街は広いらしく,子猫がそこにたどり着くまでにはやっぱり夜になっていました.  満月の光をさえぎるように,ワシが再び現れました. 『どうやら,今回はうまく行かなかったようだな』  急に離しかけられて,ブルーはブルっと身震いをしました. 「・・・うん,途中で戻っちゃったみたい」 『2回目の今日か』  時間が元に戻らなかったのは残念でしたが,ブルーにとってはあそこで目が覚めたのは正解でした. 「危うく,大きな犬に食べられちゃうって所だったんだよ」 『・・・』 「時間を戻したいけど,ボクの命と引きかえってのはいやだよ」  ブルーは泣きそうな声で言いました. 『ならば,別の方法を探すしかない』 「別の方法・・・?」  ワシにもその方法は分かりません. 『しかし,中には変えられない運命もあるのだ』 「うーん」  ブルーは公園で子供たちに尻尾を2度踏まれたことを思い出しました. 「・・・犬に追いかけられるのは,違うよね?」  名前のとおり顔を真っ青にして言います. (にゃんで,こんな目にあうんだろ?)  自分がまいた種とはいえ,この街にやってきたことをちょっと後悔したブルーでした. 「変えられない運命といえば・・・」  そろそろ,少年が空から降ってくる時間です.  そして,やっぱりドシっと音を立てて,何かが落ちてきました.  またしてもわーわー怒鳴りながら,警備兵たちに連れて行かれるロアを横目に, 「ボボボク,あの建物には行かないからね」  すぐにでも逃げ出したいブルーでした. 「逃げてもかわらないっていっても・・・」  逃げ出そうとしたブルーを,ワシが止めたのです.  しかし,ワシ自身はというと, 『私は手を出すわけにはいかないのだ』  そういって,いなくなってしまいました. 『自分で新しい道をさがすのだな』  ブルーはとりあえず,歩きながらどうするかを考えることにしました.  考えながら歩いていたので,どこを歩いているのか分かりません.  しばらく歩くと,暗い路地に入ってしまいました. 「あれ・・・ここどこだろ?」 『りんりーん・・・』  ブルーの胸元で,前の日と同じように鈴が鳴りました. 「あれ・・・?」  子の鈴のせいで大きな犬に追いかけられたことを思い出して,子猫は前足で鈴をはずそうとしました.  しかし,なかなかはずれません.  鈴をはずすことに夢中になっていると, 『どうかしたのかね?』  誰かに,後ろから声をかけられました. 「にゃっ!?」  びくっと飛び上がったブルーが振り返ると,そこにいたのは大きな犬でした. 『その鈴は・・・?』  そういって,犬はぬーっと子猫の首もとに鼻を近づけました. 「すず・・・?」 『わしのご主人のものじゃな』  犬はおじいさんのようなしゃべり方で,自分の飼い主のことを話し始めました. 『ご主人とは,ワシがまだまだ若かったころにあったんじゃよ』 「君って,人に飼われてる犬なんだね」  野良猫だったブルーは,ちょっとうらやましく思いました.  もちろん今はおじいさんがいるので,ブルーは幸せです. 『・・・名前は,ロアという少年じゃったのう』 (ん? ロア・・・?)  彼の飼い主はあの少年でした.  この鈴はロアからもらったもので,この犬は首輪の代わりにつけているようでした. 『返してもらってもいいかの?』  器用にブルーの首から鈴をはずして,自分につけました. 「そういえば・・・」  ブルーと老犬は,その後いろいろなことを話しました.  そしてしばらく話した後,ブルーはあることを聞きました. 「君の名前は? なんていうの?」 『ご主人はわしを,ジョセフと呼んているんじゃよ』  それから,ブルーは大事なことを聞き忘れていることに気づきました. 「ジョセフ,君のご主人様はあそこでなにをしていたの?」 『うむ・・・』  ジョセフは上を見上げました. 『今日ご主人がなにをしようとしていたのかは,わしには分からないんじゃ』  彼には,同じ日が何度も繰り返されていることは,分かっていませんでした.  ブルーが自分の体験してきたことを告げると, 『なるほど・・・それでは子猫さん,ひとつ頼み事があるんじゃが』 「なに・・・?」 『明日,暗くなる前にわしを見つけ出して,ご主人のもとへ連れて行ってくれんか?』 「君をあの建物の上に?」  ブルーは,ロアが落ちてきた建物を見ました. 『そうじゃ,ご主人には君の力が必要なんじゃよ』 「でも,ボクに何かできるのかなぁ」 『子猫さんなら,大丈夫じゃ』  ブルーの後ろから,12時を告げる鐘が鳴り始めました. 『君の話では,この後また同じ今日がはじまるんじゃな』 「うん,そうだけど・・・」 『ずいぶん長く話し込んでしまったのう』 「そうだね・・・また明日も話せるといいな」  ブルーはこの鐘が鳴り終われば,ジョセフが全てを忘れてしまうことを寂しく思いました.  そして鐘が鳴り終わろうとしたとき,ジョセフがブルーにいいました. 『多分,この街の時間を元にもどす鍵は・・・』 「え・・・? なに?」 『・・・わしと,ご主人が握っておる』 「それって,どういう・・・」 『それと小さな子猫さん,君もね』 「ねえ待って・・・!」  ブルーが目を覚ましたのは,やはり最初にこの街に来たときと同じ場所でした. 「ボク,どうすればいいんだろう?」  そうやって,ブルーの『三回目の今日』が始まりました.