第一話  魔法の絵の具  ある日不思議な力に目覚めた子猫がいました.  彼は人のコトバを理解し,喋ることができました.  ある人は彼のことを「世界の希望だ」といいました.  またある人は,彼のことをずっと昔から知っているようでした.  彼の名前はブルー.  ・・・黒い子猫のブルー.  彼の冒険はまだまだ続きます.  今度の話も,やっぱりおじいさんの家から始まりました. 「おはよー,おじいさん」  ブルーがあくびをしながら,2階から下りてきます. 「おはよう.ブルー」  おじいさんもあいさつをしました.  ブルーが最初の時間の旅から戻ってきて以来,不思議な出来事は起こらず,少しだけ退屈な日々が続きました.  もちろん,ブルーもおじいさんも今の生活が幸せでした.  前と変わらず,温かい寝床とおいしいご飯が準備されていて,一人ぼっちの野良猫だったブルーはとてもおじいさんに感謝していました.  しかし,前とたったひとつだけ変わったことがありました. (やっぱり今日もなのかにゃ・・・?)  おじいさんはあの日以来,絵を描いていません.  筆を一度だけとったことがありましたが,ため息をつくだけで描こうとしませんでした.  ブルーは少しだけ心配でした.  それから数日が過ぎました.  2階のおじいさんの部屋で,ブルーはあの時描きかけた絵を見つけました.  それから,その日の夕食後におじいさんにその絵の話をしました.  自分は,とてもおじいさんの描く絵が好きだということを伝えました. 「分かったよ・・・何とか完成させてみるとしよう」  おじいさんはいつもの優しい顔のままいいました. 「ホントに・・・? やった!!」  ブルーは一人で大はしゃぎです.  食事の片づけを済ませると,おじいさんとブルーは早速準備に取り掛かりました. 「空を塗ったら完成なんだよね?」  ブルーはイスの上から身を乗り出して,おじいさんの手の動きを見ていました.  もちろん,空を塗るのに使っている絵の具は,あの時ブルーが見つけたものです.  おじいさんはブルーの持ってきた絵の具で,空を塗ります.  まるで本物の空のように,きれいな青でした. 「わぁ・・・」  ブルーはしばらく何もいえませんでした.  目の前にあるのは確かに絵のはずなのに,自分がそこに描かれている街の中にいるようにさえ思えました. 「・・・どうじゃ?」 「・・・うん? あ,おじいさんはやっぱりすごいや!」  ブルーは絵に見とれすぎて,すぐには反応できませんでした.  その顔を見ると,本当におじいさんの絵が大好きなことが分かりました.      ブルーがはしゃぎ疲れて眠りについた頃,絵の具の「魔法」が始まりました.  遠い遠いある国で,その事件は起こりました.  ブルーはぐっすり眠っていたので,まだそのことに気が付いていません. 「全く大変なことが起こった・・・」  遠い遠い国の王様が,空を見上げてつぶやきました.  次の日ブルーが目を覚ますと,外は雨でした. (雨の日は頭がぼーっとするにゃ・・・)  子猫はふらふらと階段を下ります.  いつもよりぼんやりしながら,朝食を食べました.  食事が終わっても,外は相変わらず薄暗いままでした.  これでは散歩に行くこともできません.  ブルーは2階で,おじいさんの絵を見ることにしました.    ブルーがおじいさんの部屋に入ると,そこにはこの間仕上げた絵が新たに置いてありました.  空は相変わらず,きれいな青色をしていました. (あれ・・・?)  しかし,ブルーはある異変に気がつました. 「この絵・・・こないだはきれいな青空だったはずじゃ・・・」  この間の絵の後ろから,半分顔を出している別の絵を見たとき,ブルーはそう思いました.  これも見知らぬ街の絵でしたが,おじいさんが旅行に行った話を前に聞いていました.  そのとき青空がきれいだったと,たしかにおじいさんはいっていました. 「変だにゃ・・・?」  それなのに,そこに描かれていた空は真っ暗でした.  ブルーは数日前に時間を旅したときのことを思い出していました. (あのときに,感じが似てる・・・かも)  思い切って絵に向かって飛び跳ねました.  もしかしたら今度は絵にぶつかるんじゃないかと,本当は少し心配でした.  しかし,子猫の体はすっぽりと絵の中に飲み込まれていきます.  しばらくして絵をつつんでいた光がおさまると,そこにはブルーの姿はありませんでした.