第一話  出会い    長い月日は,人々にたくさんのことを忘れさせます.  昔,この世界で起きたあの出来事を覚えている人は,だいぶ少なくなってきました.  しかし,再び不思議な出来事が起こるようです.  ちいさな冒険者の,大きな冒険.  きっとこの出来事は,皆が忘れてしまった大切な「想い」を,もう一度思い出させてくれることでしょう.    この冒険のお話は,とある小さな町から始まりました.  町の名前は,フウロ.多くの緑に囲まれた,のどかな田舎町です.  今日は,とてもいい天気です.  「彼」も,散歩を始めたみたいです.  小さな家の,屋根の上.尻尾をピンと立てて,軽やかに歩いている黒猫.青い透きとおったきれいな目をもっています. (あぁ,おなかがへった・・・)  彼は野良猫なので,いつもお腹をすかせていました.  そして,名前をもっていませんでした.  ある家の屋根の上にきたとき,下からおいしそうなスープのにおいがしてきました.  思わず,足をとめます.それから,つばをごくりと飲み込みました. (おいしそうだにゃ・・・)  しかし,野良猫にご飯をくれる優しい人は,そんなに多くありません.人間に見つかったらどんな目にあうか・・・.  彼は,あきらめて散歩を続けようと,隣の家の屋根に飛び移ろうとしました.  しかし・・・うっかり足を滑らせて,地面に向かってまっ逆さま.  いつもなら,華麗に着地を決めるところですが, (おなかが減りすぎて・・・目が回る〜)  今日はうまくいきませんでした.  背中から落ちて,そのショックとあまりの空腹に目を回してしまいました.  その時,家の中から声が聞こえました. 「ん? 誰じゃ,そこにいるのは・・・?」  その家に住んでいる,おじいさんの声です.  おじいさんは,子猫が倒れている庭にやってきました.  彼は気を失っている間,不思議なユメをみました.  ・・・自分に向けて優しく微笑みかけている,きれいな女性.  彼はその女性のことを知りませんでした.  しかし,それと同時になぜか懐かしく感じました.    彼が,その不思議なユメから目を覚ますと,自分が温かいベッドの上にいることに気づきました. (ここは一体どこだろう?)  困っている様子の彼に,優しく話しかける声がありました. 「目が覚めたようじゃな.・・・気分はどうじゃ?」  その家に住んでいる,おじいさんでした. 「う・・・うん,ダイジョブみたい・・・」  子猫は答えました.  本人は,にゃーと鳴いたつもりでしたが,おじいさんは, 「そうか,それはよかった・・・」  安心したように,そういいました. (なんで僕の言葉がわかるんだろう? 不思議なおじいさんだにゃ・・・)  彼は,何がなんだか分かりません.  ただ,ひとつ気づいたことがありました. (ボクも,おじいさんの言っていることが・・・分かる?)  もしかして・・・. 「もしかして,ボクがニンゲンの言葉をしゃべってる・・・とか?」  彼の考えは,すぐに正しいものだと分かりました. 「ほっほっほ,何とも変わったことを言う子だわい」  おじいさんは,笑っています.  どうやら,彼のことを人間の男の子と思っているみたいです.